SOMEWHERE TO ELSEWHERE Album Review

(A Work in Progress)

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とりあえず現時点()までの感想をまとめてみました。

ただし、元々音楽を分析的に聴くことが不得意な上に、いわゆる「レビュー」を書くような文章力もありません。てなわけで、とりとめもないですし、不正確な部分もあるかと思いますが、とりあえず掲載しましたので、よろしければご覧ください。

(随時アップデートしていきます。)


収録曲はシークレットトラックを含め、以下の11曲。

No Song Titles Running Time
1 Icarus II 7:17
2 When the World Was Young 5:50
3 Grand Fun Alley 4:38
4 The Coming Dawn (Thanatopsis) 5:44
5 Myriad 8:55
6 Look at the Time 5:37
7 Disappearing Skin Tight Blues 7:02
8 Distant Vision 8:48
9 Byzantium 4:15
10 Not Man Big 8:39
11 Geodesic Dome ("mystery" track) 1:24
SOMEWHERE TO ELSEWHERE Album Cover

Produced by Kerry Livgren, Phil Ehart and Rich Williams

Background Notes:

Overview:

全体的な感想としては、前評判にもあったとおり「かつての」 KANSAS の雰囲気が多分に感じられます。やはり Kerry が全曲を書いたことで、KANSAS の大きな特長である、複雑な曲構成とドラマチックなメロディー、そして深い洞察と情感に満ちた歌詞という全ての特長がいかんなく発揮されている印象です。しかし、「古臭い」わけではまったくなく、これまでにまったくなかった新しい面もいくつかフィーチャーされています。

また、長い曲は多いのですが、どちらかというと全体的に「軽快」かつ「落ち着いた」印象を受けます。"Freaks Of Nature" での重厚かつ溌剌とした路線のファンにとっては、やや「大人しくなった」または「元気がなくなった」かの印象を受けるかもしれません。


以下、各曲の感想です。

Icarus II

イントロのピアノパートが非常に美しい。

第2次大戦中に、仲間を救うため自ら犠牲となった米軍パイロットの実話に基づいた、物語的な歌詞を Steve Walsh が感動的に歌い上げている。しかも音楽が歌詞の内容を巧みにバックアップしており、まるで映画でも見るかのように情景を思い浮かべることができる。

途中で Icarus I のメロディーも登場はするが、全体の曲調としてはあまり近いものを感じない。

中盤でまるで METALLICA がやりそうなハードかつヘヴィーなパートが顔を出してビックリする。 しかし、 ここは戦闘機が空中戦を展開するシーンであり、まさに歌詞と曲調がマッチしている。

最後にパイロットが仲間に「今のうちに逃げるんだ!」と叫んだ後、曲調は急展開、イントロに登場したピアノによるメロディーをはさみ、ギター、そしてクワイア風のバックを従えたバイオリンが厳かにメロディーを奏でていく。感動的なエンディングだ。

パイロットの最後の言葉 "I'm going home" に登場する "home" が意味するものは果たして「彼の家」なのか? それとも? 最後まで考えさせてくれる含蓄のある歌詞だ。

なお、Icarus II の主人公のモデルとなった実在の人物 Frederick W. Castle に関するページは以下。

A Tribute To Brigadier General Frederick W. Castle

彼は自らの操縦する機が撃たれたとき、地上にいる仲間の兵士達を巻き添えにするのを避けるため、脱出せずに最後まで機の操縦を続け、自らを犠牲にしたとのことである。

When The World Was Young

ベースは Dave Hope。基本的にシンプルなヴォーカル曲。サビのコーラスパートはちょっと惹かれるものがある。3rd ヴァース での Steve のヴォーカルは特に強力。最後で Magnum Opus のりフや Sparks Of The Tempest のエンディングに似たリフが登場するなど、「ひねり」が加えられている。

Grand Fun Alley

Robby のヴォーカルが良い。ちょっとした構成上の仕掛けも冴えている! タイトルはおそらく "Grand Finale" にひっかけたものだろう。ギターソロも長め。(速弾きではない!) 全体的にギタリストにとっては聴き所が多いように思う。一瞬終わったと思わせて登場する短い SE 的なパートが何かを象徴している?

The Coming Dawn (Thanatopsis)

ドラマチックかつ美しい! これはライブで聴きたい。 Steve が歌い上げてくれるに違いない。

中間のヴァイオリンソロ、泣けます。ある意味、The Wall に匹敵する名バラード。高揚感を与えてくれるコード進行。歌詞を読みながら聴くとまたひとしお。

この曲の副題のギリシャ語 Thanatopsis (= "a study of death") が示すとおり、この曲は「死」について歌っている。しかし、悲壮感は全くない。死の瞬間、「この世」が終わり、「あの世」へと導かれる瞬間、その瞬間を新たな始まりという意味で、「夜明け(dawn)」という言葉が象徴しているのだろう。「この世」で培ってきたもの、大切にしてきたものが、「あの世」へも引き継がれることを願う内容の歌詞だ。3rd ヴァースで登場する "you" は果たして神のことか、それとも「この世」で自分を支えてくれた伴侶のことか? いずれにしても感動的な歌だ。

これはあくまで個人的な意見だが、この曲には 2nd アルバム "SONG FOR AMERICA" に収録されている感動的な名曲 Lamplight Symphony に対する続編的な意味合いを感じる。Lamplight Symphony では妻に先立たれ、悲しく虚しい日々を送っている老人のもとへ、死んだ妻が亡霊となって現れ、彼女は「あの世」で彼を待っており、そこで彼らはまた一緒になれるのだ、と伝える。これによって老人は残された人生を生きる希望を取り戻す、というものだ。この曲の 3rd ヴァースは、自分にはまるでその老人が今まさに妻の待つ世界へと旅立つ瞬間の心境でも歌っているかのようだ。

数年前、交通事故で最愛の妻を危うく失いかけた Kerry の悲しみ、そしてその後妻が奇跡的に昏睡状態を脱し、回復したことによる神への深い感謝、それらの経験から彼なりに「死」に対して現在持っているイメージが何らかの形で反映されているに違いない。

ちなみにThanatopsis は、Child Of Innocence の原題だという説もあるが、未確認。

Myriad

曲としての「プログレ度」では、アルバム中最も高い曲。KerryKANSAS の最も初期に書いた曲が元になっているという。

イントロは People Of The South Wind を一瞬思わせたが、いやはやどうして。かつての KANSAS を思わせるすばらしい構成。歌に入ってからも迫力の展開! これは是非ライブで聴いてみたい。

歌詞の内容は数学の本にでも多く出て来そうな単語が散りばめられ、非常に抽象的だ。歌詞カードにある最後の1節と、Kerry が「非常に敬虔な」クリスチャンである事実から、「神」の持つ力とその神秘について歌った歌詞と結論付けるのは簡単だが、あまりに早計かもしれない。

それにしても奇数拍子によるインストパート、そしてコーラスパートが交錯する場面展開の見事さ。初めて聴いたときは完全に度肝を抜かれた。以下のとおり(Message Board より):

素晴らしい!! これでもかの展開! うおおお〜〜〜、これは強力だ!!! やられました。すごいです。うわああああ〜!! 死ぬかと思ったぜ〜〜

Look At The Time

Billy Greer のリードボーカリストとしての才能を広く知らしめることのできる KANSAS として初の曲だ(STREETS 時代のライブでは Cold Hearted Woman で素晴らしいリードを聞かせてくれるが)。この曲もベースは Dave Hope。ヴォーカルパートは多分にビートルズ的(I Am The Walrus を思わせる)だが、中間部での展開が意表をつく。中近東風のメロディーを奏でるヴァイオリン。そして、クワイア的なキーボード・パートを伴う Magnum Opus を思わせるヘヴィーなメロディー。エンディングのアルペジオが非常にミステリアス。

Disappearing Skin Tight Blues

美しいイントロ。一瞬バラードかと思わせ、ブルージーなヴァース部分へ。こういう曲での Robby のヴォーカルは実にいい。クラシック教育は受けているものの、真の音楽的なルーツはやはりこちらなのではと思わせるくらい、ハマっている。サビではビリーのコーラスが絡む。

歌詞は古い皮を脱ぎ捨てて新しく人生をやり直そうとしている男の話しのようだ。

Distant Vision

一瞬 "Vynil Confessions" 収録の Chasing Shadows あたりを思わせるピアノによるイントロ。しかし、その後どんどん展開していく。

Steve によるリードヴォーカル。暖かみのあるメロディー。現在の Steve の声にはすごく合っているように感じられる。

中間部でもこれぞ Kerry 節ともいうべきどこか懐かしいフレーズがそこかしこに現れながら、どんどん展開していく。

その後、ヴァイオリンを活かしたバラード調となりリードヴォーカルは Robby へ。そしてまた Steve のパートへと戻る。Steve の素晴らしいハイトーン。

ドラマチックなエンディング。

6/28 に放送された Rockline での Kerry のコメントによると、この曲は Christopher Columbus についてのものだという。これも宗教的な内容かと深読みしたファンはある意味煙に巻かれた形だ。しかしそれさえも「歌詞について深く考えさせよう」と Kerry が意図したものなのだろう。

Byzantium

タイトルどおりビザンチン教会を思わせるクワイアから、ヴィオラ(?)による現代中近東を思わせるフレーズが登場。これまでの KANSAS の歴史の中で最も「異色」な曲と言えるが、非常に美しい。

Not Man Big

基本的にヴォーカル曲。かと思いきや、あたかも Steve が弾いているかのようなオルガンソロの後に、はまるで LED ZEPPELINKashmir を思わせるヘヴィー・パートが登場。その後、アップテンポなヴァイオリン・ソロを挟み、ヴァースへと戻る。

エンディングでは、4/7Kansas City に集まったファン達による "Not Man Big Men Chorus" によるヴォーカルパートの他に、ラップ風のパートも聞こえるなど、遊び心多し。

Geodesic Dome ("mystery" track)

お遊び的なシークレットトラック。Rich によると、KerryRobbyBillyRich の4人でスタジオに入り、ワンテイクで録ったものだそうだ。Kerry によると70年代の KANSAS がサウンドチェックのときに演奏した "joke song" だそうだ。「"Geodesic Dome" 工法(下記注参照)の家に住みたいよ〜」というナンセンスな歌詞がアコースティック楽器とともに和やかな雰囲気で歌われている(笑)。非常に低い声のヴォーカルパートは Rich か? Kerry 「もう一回やらなくていいよな」、Robby 「終わり!」みたいな会話が聞こえる。お疲れ様でした!

注:"Geodesic Dome" 工法について